2022年12月11日日曜日

ルートヴィヒ美術館展 (京都国立近代美術館 2022.10.14-2023.1.22)

20世紀美術の軌跡
市民が創った珠玉のコレクション

ドイツのケルンにある美術館のコレクション展。
複数の市民の寄贈によるコレクションだそうで、主に近代・現代の美術品が集められています。

ドイツ表現主義、新即物主義、キュビズム、ロシア・アヴァンギャルド、バウハウス、シュールレアリスム、ポップ・アート、抽象芸術、ミニマリズム.....
近現代は大きく芸術の可能性が一気に開放された時期であり、激動の時代でもありました。
Wassily Kandinsky, Paul Klee, André Derain, Maurice de Vlaminck, Amedeo Modigliani, Henri Matisse, Man Ray, Max Ernst, Jackson Pollock, Roy Lichtenstein, Jasper Johns, Andy Warhol, Robert Rauschenberg などのスターたちの作品が展示されています。
中でも Pablo Picasso のコレクションは世界でも有数の数を誇っているそうで、今回の展覧会でも多く展示されていました。

このコレクションの中で僕が一番惹かれたのはポップ・アートのいくつかの作品です。
Jasper Johns の "0-9" はポップ・アートが注目される1960年代より前の作品、抽象度と色彩感覚が抜群です。数字を順番に並べただけ、という意味のなさがポップ・アートの精神を表しているように思います。
Robert Rauschenberg "Tree Frog" はコラージュとペンキ・ペインティングの複合技。抽象性が高い中で高度に装飾性を保っています。

この2作品を知れただけでも行った甲斐がありました。

https://ludwig.exhn.jp

2022年12月4日日曜日

ANDY WARHOL KYOTO (京セラ美術館 東山キューブ 2022/9/17~2023/2/12)

なぜこれほど彼の作品は影響力があるのだろう?
基本的にはイミテーション。
写真を引き延ばしてカラーリングを施しただけ。
あるいは商品をそのままコピーして反復しただけ。
作風はインスタント。
展覧会の中でもペインティングしている映像が2つ流れてました。毛沢東と鎌とハンマー。
いずれも床をキャンバスにして、アクリル(と思われる)をペンキの刷毛で無造作に塗りつけてました。
至って簡単です。

過去の巨匠のように緻密さや、驚くような技術は皆無。
それでいて完全にユニークなんですね。
これって WARHOL と一目で分かる。
しかもカッコいい。ポップ。商業的。
そういう文脈では、ポップ・ミュージックにおけるパンクのような精神性を持っているのかもしれません。

なんの意味も持たないポップ・アートと並行して制作された「死と惨劇」シリーズや、ツナ缶のボツリヌス菌で死者が出たことを題材にした「ツナ缶の惨劇」、ケネディの暗殺とアメリカの健康性を表した「ジャッキー」なんかは非常に興味深かったです。
「3つのマリリン」にしても、モンローの死から着想したものですし。
美的感覚からのインスピレーションとは別の「死」という物語性からのインスピレーションを持っていて、この部分ではウォーホルはアーティストだったんだなぁと思います。

晩年の「最後の晩餐」にしても、ウォーホルとカトリックの結びつきを表し、なんとも意外な感じでした。

イラストレーター時代(プレ・ポップ)も含めて、ウォーホルの色々な面を楽しめる展覧会でした。
彼のアート作品の重要なアイテムである映像フィルムを放映していたことも含めて。


https://www.andywarholkyoto.jp
https://www.warhol.org

"Double Elvis" (1963)
 "Three Marilyns" (1962)
 "Jackie" (1964)
 "Tunafish Disaster" (1963)
 "The Last Supper" (1983)

2022年9月11日日曜日

スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち (神戸市立博物館 2022/7/16~9/25)


一番素晴らしかったのは、Diego Velázquez の 「卵を料理する老婆 Vieja friendo huevos」です。
1618年、18〜9際の作品というのが驚きです。11歳から地元の画家に弟子入りし、18歳で独立と言いますから早熟の天才だったのでしょうか。
驚くのが、手前の器類の質感の描き分けの巧みさです。陶器、銅製品、ガラス瓶、荒い表面、滑らかな表面。
それにカボチャや布の質感も。
バロック風の強い光と影の陰影と色使いが何でもない風景をドラマチックにしています。

それと「Ophelia」で有名なイギリスの画家 John Everett Millais の「古来比類なき甘美な瞳 Sweetest eyes were ever seen」も美しかったですね。
暗めのバックに浮き上がる淡い少女。Elizabeth Barrett Browning の詩から引用したというタイトルがイカしてます。

地元スコットランドの画家 William Dyce の「悲しみの人 Man of sorrows」も素晴らしい。
それほど大きくない画面ですが、(おそらくイギリスの)荒野のくすんだ緑と、(おそらくキリストである)男の紺と赤の着衣の色彩が綺麗です。

展覧会は全体に習作が多いのが残念ですが、予約制で混雑してなくて良かったです。

https://greats2022.jp








2022年8月7日日曜日

ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展 (大阪市立美術館)

フェルメール1枚で大展覧会ができるんですから、日本におけるフェルメールの人気ってすごいなと思います。
しかもこの1枚は、過去にはレンブラント作とか他の人作とかと言われていた初期の作品ですし。

目玉は何といっても、その修復です。
作中画としてキューピッドの絵が復旧された、ということで、これがフェルメールのオリジナル、ということでしょうが、ちょっと焦点が2つできたみたいで、構図としてどうなんだろう、とは思います。
後世の人が塗りつぶした気持ちも分からないではありません。
それより、鮮やかな色が蘇った方が僕には意義があることに思えます。
特にカーテンの赤と窓の青(ラピスラズリでしょうか)が鮮やかに蘇ったのは素晴らしいことだと思います。
根気のいる作業でしょうね。

フェルメール1枚を目玉にしているとは言え、その他のオランダ絵画も見過ごせません。
オランダ絵画といえば写実性が特徴ですが、静物画にして肖像画にしても風景画にしても、その技術に驚きます。
日本で言えば江戸時代初期、そんな時代に!
レモンのみずみずしさ、ガラスの反射、ビロードやシルクの生地感、血管まで意識した手の肌.....
神業ですね。

Girl Reading a Letter at an Open Window / Johannes Vermeer
Woman Behind a Green Curtain / Bartholomeus van der Helst
Interior of the Oude Kerk in Amsterdam / Emanuel de Witte
The Gallant Gentleman / Jacob OchterveltPortrait of a Woman / Michiel van Mierevelt


2022年7月3日日曜日

没後50年 鏑木清方展 (京都国立近代美術館 2022/5/27-7/10)

驚愕、驚嘆しました。
これがプロの技か!美術品というより工芸品。まあ細かい、繊細、手抜き一切なし。
これだけディテールにこだわって、全体のバランスが崩れていないのもすばらしい。
髪の毛一本一本、かんざし、和服の文様、帯、指先、すだれ、店先...
こりゃ実物じゃないと伝わり切りません。

「築地明石町」の主人公の瞼の線を、拡大して初めて気がつきました。よりクール・ビューティが映えます。

「ためさるゝ日」の髪飾りの鎖の輪を細かく描いているのを見たとき(遠目にはひもに見えました)、「浜町河岸」のかんざしのリアルさに気づいたとき、「露の干ぬ間」の完璧な竹の描写を観たとき。
細かいところまで見ることができたのは、新しく購入した単眼鏡のおかげです。

西洋美術の細かいところを見ても驚いたりしませんでしたが、今回の鏑木先生の絵は、それこそ「神は細部に宿る」です。本当に驚きました。

こんなに精魂を込めた絵を何枚も書けるのってものすごいことだなと改めて、画家の胆力を感じました。僕なら途中で嫌になりそう。

しかも、それほど登場しない花や竹などの植物も完璧に描き分けていて、これって何なんでしょう、才能ですか?ものすごい鍛錬ですか?

神業です。


https://kiyokata2022.jp/

2022年6月1日水曜日

モディリアーニ ー愛と創作に捧げた35年ー (大阪中之島美術館開館記念特別展)

中之島美術館では、"Reclining Nude With Loose Hair" を所蔵していることから、開館記念として Modigliani の特別展を企画したようです。
目玉の一つですからね。

引き伸ばされた頭部、極端に長い首、時にパステル・カラーに塗りつぶされた目、独特の赤茶色の使い方、彼の絵は一眼見て彼の絵と分かる本当のオリジネータだと思います。

常識なのかもしれませんが、これらが彫刻、特にアフリカのプリミティブな仮面や彫刻から着想を得ていることがよく分かりました。
基本的に Modigliani は彫刻家をめざしていたそうで、その夢破れて絵画に回帰したようです。
絵画に回帰したのが1914年で亡くなるのが1920年なので、ほんの数年に大量の傑作を生み出したことになります。
やっぱり、芸は量ですね。

それと、アフリカの民族工芸の影響も大きそうでした。
同時代の Picasso もアフリカに興味を持っていたように、時代の波に敏感だったのかもしれません。
彫刻への傾倒とアフリカ嗜好をうまく昇華させて独特の芸術に結実させていくところが、やはり天才なんでしょうね。

Amedeo Modigliani はエコール・ド・パリの一人のように言われますが、この展覧会では彼と同時代に生きた、パリに集まってきた若き芸術家の絵もたくさん取り上げています。
Pablo Picasso, Marie Laurencin, Andre Derain, Moïse Kisling.....
中でも一番良かったのは、Marc Chagall の絵でした。Modigliani とは同じユダヤ系で外国から来たという点で親交があったようです。
いわゆる Chagall 的な色彩が完成する前ですが、浮遊する人などはすでにオリジナリティの萌芽が見られます。
Modigliani も大きく感化されたことでしょう。

Jeanne Hébuterne の悲恋のストーリーも紹介されていて、それを知っての Jeanne Hébuterne の肖像を見ると感慨深いものがあります。 

ポール・アレクサンドル博士の肖像
髪をほどいた横たわる裸婦


2022年2月18日金曜日

⼤阪中之島美術館 開館記念 Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―

やっと開館した中之島美術館、開館記念でコレクションを一挙公開ですが、なんせ展示物が多い。

洋画、日本画、写真、オブジェ、インテリア、現代美術、ポスター、大阪にゆかりのある絵・画家....

2時間じっくり観たあとで気づいたのは、まだ半分、結局3時間半かかりました。

素晴らしいコレクションだと思います。

最初のパートにあった佐伯祐三のコレクションが印象深いです。オリジナルな作風を確立してますよねえ。絵を観れば誰が描いたか分かる。

また、クリムト、ロートレック、ジャコメッティ、マグリット、ダリ、エルンスト、ローランサン、関雪、松園ら、ビッグネームはやっぱ画力がすごくて、センスが桁違いやな、と思いしらされました。

佐伯祐三 "郵便配達夫"

石崎光瑤 "白孔雀佐"

モディリアーニ "髪をほどいた横たわる裸婦"

草間彌生 "アキュミュレーション"

フランク・ステラ "ゲッティ廟(第1ヴァージョン)"

リヒター "ドゥインガーの肖像"

クリムト "第1回ウィーン分離派展"

ボッチョーニ "街路の力""

図柄はありませんが、次も印象深いものでした。

  • 佐伯祐三 パリ15区街
  • 橋本関雪 霜猿
  • 伊谷賢蔵 万年山


https://nakka-art.jp/untold-99-stories/index.html